うまい日本酒はどこにある?
最初、タイトルを見たとき、「これはよくある日本酒の危機をあおった、おきまりの批判本かな」って思った。それで、食指が動かなかったのは事実。だって、どこそこの酒がうまい、とか、大手メーカーの酒が元凶だとか、三倍増醸酒がなくなればいいとか、そんな話はもういいやって、思っていた。でも、そんな単純な本じゃなかった。シリアスで深刻な本なのだから。 おそらく、序章における三増酒への非難、そして第1章の地酒の蔵元のレポートあたりまでは、納得もするだろうし、同時に聞き飽きている話にもなるだろう。序章での、高い吟醸香という傾向に辟易している著者の言葉については、少し保留したいところもあるのだけれども、まあそれはいい。 本書がドライブ感すら感じるまで、読み応えがあるのは、第2章。まず、大手メーカーの話を聞いている。大手メーカーの生産現場は明らかに努力をしているし、紙パックのお酒であっても、品質は保証している。むしろ粗悪な地酒よりもおいしい、と。カップ酒はどこでも味が均一だし。そして、大手メーカーが桶買いすることによって地酒メーカーの技術が向上したことも明記している。にもかかわらず、営業・販売部門への手厳しい非難も忘れない。そして、清酒が主力商品ではなくなっている大手酒造メーカーの今後の戦略にも注目している。 さらに、酒販店、料飲店への取材を通じて、この日本酒が売れない問題の根深さを語っている。それでも、本書のアプローチが救われるのは、日本酒だけで年商何億という売上をあげている酒販店、日本酒をもっとも美味しい形で提供しようと努力している料飲店のレポートに力を入れているところだ。明らかに、歴史の中でもっとも美味しい日本酒が飲める時代にいるというのに、多くの酒販店・料飲店は日本酒に十分な知識がなく、お客に優れた状態で提供できていない。その中で、本書で取り上げたお店のケーススタディは本当に勉強にもなった。酒販店の店員はお客にお酒を売るときに、きちんと「好み」や「その日のメニュー」を聞き、お酒を選ぶのを手伝う。しばしば利き酒もしてもらう。よく考えれば、化粧品やアパレル関係の販売員などにとっては、当たり前のことなんだろうけど、そんな努力すらしなかったら、酒販店においては日本酒どころか酒そのものが売れないのは当たり前なのかもしれない。 それにしても、日本酒の危機というのは、「若い人が日本酒を飲まなくなっている」からではなく、「興味すら持っていないから」だという指摘、そして食事のスタイルや晩酌をしなくなっているという傾向が、この問題の根深さを語っている。おそらく、危機は日本酒だけの話ではなく、ぼくたち自身が置かれている豊かさの危機ですらあると思うのだが、いかがだろうか。 本書は危機をあおってなどいない。ただ冷静に、危機を指摘しているだけなのである。
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