新ほんものの名酒・名品―日本酒・本格焼酎・泡盛・地ビール
30年前、稲垣が書いた「ほんものの日本酒選び」は大ベストセラーになった。ここから地酒ブームが始まったといってもいいかもしれない。当時はまだ、級別もあり、お酒といえば大手メーカー、ちょっと高級感のあるお酒としては、やはり洋酒、とりわけ輸入ウイスキーやブランデーといった時代だった。稲垣自身もそこから、作家ではなく酒類評論家としての地位を確立していく。月刊ビミーができる10年前の話だ。 以降、多くの評論家が登場し、あるいは出版社主導で、類書が出版されるようになり、後に焼酎もまたこうした状況になっていく。地酒ブームこそ過去のものとなったが、質の高いお酒を求める愛飲家は定着してきたといえる。 本書は、その稲垣が2007-08年版としてまとめた、日本酒・本格焼酎・泡盛・地ビールの名酒カタログである。もちろん、30年前の本が現役でいられるほど、日本酒業界が変化しなかったということはない。むしろ激変しており、それゆえに新版が求められるわけだが、すでに類書が市場にあふれる中で、そこにはどんな意図があるのか、興味はそこに行き着くだろう。 結論を言えば、本書はお酒をセレクトするにあたり、「全国酒類コンクール」の入賞という基準を設けることで、できるだけ客観性を持ったものにしようとした点だ。このコンクールは市販されるお酒を対象にしている点で、全国新酒鑑評会と大きく異なる。これはまた、鑑評会批判とも受け取れるかもしれない。そうした基準でお酒を選び、蔵、そして代表的な入賞酒を紹介するという、シンプルな構成だ。稲垣の好みというより、稲垣のお酒に対する評価を読み取ることになる。まさに、客観的な評価を稲垣が読み解くということになる。そして、それがどの程度まで的を得たものかは、読者自身の舌で判断すればいいことだ。それが読者にとっての大きな楽しみになるだろう。 あの酒があってこの酒がない、という批判はあるかもしれない。でもとりあえずの「定番」としては目安になることは確かだ。それゆえ、生酒系など定番の日本酒から外れるものはあまり収録されていない。その点はクラシカルなリストに映るかもしれない。でも、定番ゆえに発揮される実力もあると思う。むしろそうした、抑制されたところに価値を見出し、お酒をゆるゆると飲みたい、そんな気にもなってくるというものだ。 なお、これは著者の責任でも出版社の責任でもないのだけれど、収録されたお酒だけが「ほんもの」なのではないということはあらためて書いておく。多様なお酒の情報の中から、おいしいものを探し出す、そのためのガイドの一つなのだ。30年後の現在、たくさんのお酒のガイドを比べてみるという楽しみまで提供されるようになった、ということでもある
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